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分析力で“好き”と“興味”を仕事にする

更新日:2022年4月15日




木内さんがスケートを本格的に始めたのは、小学2年生の時。幼い頃から背が低かった木内さんに、お母様がフィギュアスケートを勧めてくれた。幼稚園から通っていた雙葉学園から明治神宮外苑スケートリンクは近く、滑り始めると練習が楽しくて自然とリンクに通う回数が増えていった。

同年代で既にダブルジャンプ跳んでいる選手を見て、自分も同じ試合で演技をしてみたいと思うようになった木内さんのアスリート・ストーリー。



ゲストプロフィール

名前:木内 千彩子(きうち ちさこ)

現在の職業:スケートインストラター

      デザイナー

競技、歴:・2011年 東京選手権大会

       第3位 (シングル)      ・2011年 全日本選手権大会

      出場 (シングル)      ・2015年 ISUグランプリファイナル

                         第4位 (シンクロ スウェーデン代表)                          ・2018年 ISU世界シンクロナイズド

                         スケーティング選手権大会  

                         準優勝 (スウェーデン代表)                          ・ISU世界シンクロナイズド

                        スケーティング選手権大会 7回出場

(1回日本代表/6回スウェーデン代表)



『続けることの大切さ』


本格的に練習を始めるのが遅かったが、同じリンクに同年代で既にダブルジャンプ跳んでいる選手を見て、自分も同じ試合で演技をしてみたいと思うようになった。


練習していくうちに次第に上達していくが、シングルスケーターとして日本のトップにはなれないだろうと小学生の頃から感じていたという。スケートが好きというだけではトップ選手にはなれないという現実に直面している時、コーチに技術面だけではなく気持ちの面でも支えてもらった。コーチと共に過酷な練習を頑張り、スケートが好きで楽しく滑るスケーターは、氷上でとても輝いてみえた。そんな中芽生えた目標は、「スケートのインストラクター」。小学校の卒業文集に綴り、インストラクターになった今、その文集を携帯の背景画面にして励みにしている。

中学から高校時代には試合中の骨折や肉離れなどの怪我もあり、なかなか結果を残せず苦労したが、高校3年生の時にずっと目標にしていたシニアでの全日本出場を実現する。

その時を振り返り、「結果がすぐに出なくても、続けることの大切さを知ることができた」。






実は怪我をしていた間、同じリンクにあるシンクロチームに誘われていた。

体験してみるとすぐに、「同じフィギュアスケートだけれど全然違う魅力」を感じる。

シングルの最終目標の全日本出場を達成したあと、海外から誘いを受けていたこともあり、シンクロに完全に移行。

高校を卒業してすぐに歴史のあるシンクロ強豪国、スウェーデンへ渡る。





本来は高校卒業後、デザインを学ぶために日本で美術大学への進学を希望し、予備校にも通い、センター試験の申込みも済ませていた。その状況の中だったが、最大限に身体を動かすことができる時に自分の限界を試してみたいと出国を決断した。



『スウェーデンでの生活』


最初はスウェーデン語がまったくわからず手探りの状態で、チームメイトの家にホームステイする。当初を振り返ってもらうと「まるで赤ちゃん」。

そんな状況の中でも頑張れたのは、確かな目標があったからだった。

「世界選手権で表彰台に乗る。結果を残してから日本に帰りたい」。

スウェーデンは、シンクロの世界選手権が始まった当初からの強豪国。その中での景色を味わってみたかった。

しかし、予想外のことが起こる。

世界選手権表彰台の常連だったチームだったが、多くの主要メンバーが辞め、1からチームを立て直す時期に重なる。学ぶことも多かったが、辛いことも多かったという。


シンクロの魅力を聞くと、

「シングルと違い16人で滑るので、音通りに決められたステップを、決められた角度で踏まないといけない難しさの中で、隊形を変化させ表現する面白さ。16人全員で物語を作るので、構成と表現の幅が広がるのも面白く楽しい」。

あとはなんといってもチーム競技ならではの魅力だ。

世界選手権にはスウェーデン代表として7シーズン連続出場していたが、2018年にようやく準優勝。結局6年かかった。

その裏にはたくさんの苦労があった。強豪国と言われていた中で、なかなか結果を残せない悔しい気持ちや諦めの気持ちを、チームのメンバーみんなが感じていたからだ。

そんな中2016年に2018年世界選手権の開催国がスウェーデンに決まる。あと2年このメンバー全員で滑りきろう。そう約束してから、何が必要で何が足りないか、何度もメンバー同士で意見をぶつけた。チームに入った当初の自分では考えられないほど、気を使わずに大切だと思ったことはどんどん発言した。みんなが同じ大きな目標を掲げ、お互いに信頼していたから、どんなに意見が割れても途中で投げ出すメンバーは一人もいなかった。人との繋がりや信頼が大きな力を生むことを感じられたとても特別な時間だったという。






2018年、地元のストックホルムでの世界選手権。地元のリンクでお世話になった方々が見守る中での表彰台。そこからメンバーと一緒に見た景色は一生忘れないという。

とても強い意志をもって、叶えた瞬間だったろう。

海外生活を振り返り、「ちょっとしたことに動じなくなった。チャンスだけ逃さないようにすれば解決策は必ずある」と朗らかな笑顔で話してくれた。


『帰国して』


引退試合となった世界選手権を終えた翌日から次に進みたい道は、はっきりしていた。光に包まれた真っ白な氷上で滑る世界はとてもキラキラしていた。単純にスケートが好きでとても楽しかった。これからは、その景色や気持ちを教えていける人になりたい。幼い頃からの夢であるインストラクターになりたいと自分の気持ちを再確認した。実現できる道を探る。

そして現在2020年から横浜銀行アイスアリーナで、幼稚園生から60代の方までインストラクターとして指導をしている。


シンクロスケートでの更なる目標は「日本のシンクロチームを強くしたい。」

そのために今の自分に出来ることを考え歩んでいる。

シンクロのテクニカルスペシャリストの資格を取得。シンクロチームの振り付けもしている。資格をとったことで知識も増え、様々なチームを見ることが出来るので、現役のときには気づかなかったことも多いという。

シンクロは、シングル以上に振り付けによって点数の出方が違ってくる。今それを任される喜びも感じているという。





そしてもう1つ、木内さんは夢を叶えている。

高校卒業後進もうと考えていたデザインの道だ。

メインの仕事はスケートのインストラクターだが、デザイナーの仕事も並行している。

現地の語学学校を卒業後、美術大学に通いスウェーデンのアートの感性を学んだ。スウェーデンはアートに敏感な方が多く、知名度や流行ではなく自分が好きなものを見つけて購入する。その他に日本と似た感性もあるといい、融合したら面白いだろうと思っていたという。

その知識を活かし、現在、MiriKulo:rer(ミリクローレル)という名でデザイナーとしても活躍している。

正直、とても大変な道なのではないかと聞いてみると、

「両立しやすい環境を自分で探している。これからも両立してきたい」という。

自身を分析して、「1つの事に邁進している方を尊敬しているが、自分は埋もれてしまうタイプ」と感じている。

今まで、様々な事をやってみると意外な共通点があり、それによって双方が上手くいくという経験があった。そこで忙しくなっても自分の魅力にもなると信じ両立している。

今ではデザインの時間は息抜きにもなり、インストラクターの仕事にもいい影響を与えてくれているという。

改めて木内さんの、芯の強さと柔軟さを感じた。


社会に出る後輩にアドバイスをと伺ったところ、

個人の意見とした上で、「スケートは集中しないと出来ないスポーツだが、空き時間に興味のあることも大切にして欲しい。意外な共通点が将来にも繋がってくるのかなと思う」と話してくれた。

実際木内さんも、子供の頃から何かしら作品を作って人に見てもらうのが好きだったそう。フィギュアスケートにも通じているし、当初美術大学に行こうと考えていたのもそこからだった。

更に、「スケートは気持ちが強くないと出来ないので、社会人になって色々なことがあっても役立つ。広いリンクの中1人で滑っていた経験は、気持ちが強くないと出来ない。それが出来るということは、意外と何でも出来るのかも。その経験を自分の強さと自信にしてほしい」。

ぜひ、多くのスケーターに届いてほしい言葉だと感じた。





『後記』


凛とした透明感と、聡明さが印象的な木内さん。

お話を伺っていると、こちらが聞きたいことを瞬時に察しお答えいただき、更に経験から得たことまでしっかりとお話をしてくださいました。

その中で特に感銘を受けたのが、ご自身の分析力。

それについて伺うと、

「自分を客観的に見られるようになったのは、海外に行ってから。

スウェーデンにいた頃はほぼ日本人がいなくて、自分の印象=日本人の印象になると感じ自己分析を始めた。社会人としても様々なことが身についた」とのこと。


自身の分析力、経験を糧とする力が強さとなり、社会を柔軟に生きていく力も身につけていらっしゃると感じました。


昨今、アイスダンスやペアでも世界から注目を集めている日本のフィギュアスケート。

シンクロも、強豪国となる日を楽しみに応援しています。

木内さん、ありがとうございました!






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